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インタール細粒10%で起こった下痢の事例からわかる添付文書の使い方

医師の処方通りで添付文書に沿った内容の薬を、
ただ取り揃えて渡すだけが薬局の業務ではないことを考えさせられる事例でした。

また内容を考えると医療事故・過誤に分類されてもおかしくない状況でした。

最終的な経過までは介入できないのですが、薬局内での協議の内容を共有しようかと思います。

処方内容や調剤時の状況

処方内容
インタール細粒10% 18g 分3毎食前 30日分

患者は食物アレルギーとのことで該当医療機関を受診。
医師からは用量の説明などは受けていなかった。

処方監査時に薬剤師は用量が異常であると判断したが、
添付文書上の記載は「40mg/kg/日を超えない」と記載があったため、そのまま服薬指導実施しお渡し。

翌日、患者より「下痢が止まらない」と連絡を受け、
電話にて聞き取りと患者への説明を実施し医療機関を再受診してもらうことで合意となった。

処方の妥当性を添付文書の情報から検証してみた結果

実際に添付文書を確認してみると、今回の処方は用法用量としては妥当でした。

添付文書の用法用量の記載

通常2歳未満の幼児には1回0.5g(クロモグリク酸ナトリウムとして50mg)を、また、2歳以上の小児には1回1g(クロモグリク酸ナトリウムとして100mg)をそれぞれ1日3~4回(毎食前ないし毎食前及び就寝前)経口投与する。 なお、症状に応じて適宜増減する。ただし、1日投与量はクロモグリク酸ナトリウムとして40mg/kgを超えない範囲とする。

体重が45kgであれば、「40mg/kg×45kg=1800mg」であり、
これは製剤量として18gに相当します。

ここまでは一般的には疑義照会の対象にならないと思う薬剤師が多いと思います。

ただ、薬物動態・薬効薬理・化学構造を考慮するとどうかな~と思ってしまう内容でした。

薬物動態

本剤は幼児においても小児の場合と同様に、消化管からの吸収は極めて少なく投与量の約1%程度であり、その排泄は速やかであった。

薬効薬理

本剤は吸収されて作用を示す薬剤ではない。消化管にお けるマスト細胞の脱顆粒を抑制することにより、腸管内透過性亢進を抑制し、結果として二次的に起こる多量の抗原の血行への流入・免疫複合体の形成を阻止し、消化管のみならず、皮膚・呼吸器のアレルギー反応を抑制する。

 化学構造・性状

水に溶けやすく、プロピレングリコールにやや溶けにくく、エタノール(95)に極めて溶けにくく、2-プロパノール又はジエチルエーテルにほとんど溶けない。

とにかく水溶性の物質で体内にほとんど吸収されないということがよくわかります。

ということは、体内循環へ入らなかったクロモグリク酸が腸管の中に大量に存在することになります。

水溶性の物質が腸管の中にたくさんある状況というと、
一番想像しやすのは酸化マグネシウムを服用した状態かなと思います。

腸管に水分を保持させて便を出しやすくするのが酸化マグネシウムですので、
それと同じ状況になっていると考えれば、便を柔らかくする作用があると考えてもおかしくないですね。

これが下痢を誘発する原因なのではないかと考えられるわけです。

で、腸管の長さを考慮すると、新生児では大人の半分くらいの長さしか無いのですが、
4歳までに大人とほとんど同じ長さになると言われています。

つまり、小児と大人で腸管の長さが10倍異なるということはないので、
当然、小児用量の1日2gに対して10倍近い量(18g)を服用すれば、
下痢になりやすくなるというのが納得行く話になってきます。

ここまで調べてみると、今回の処方の妥当性が低いということがよく分かるかと思います。

薬局内で日々の業務の中でも、こういった失敗したと思われる事例から学習することは大切ですね。

あとがき

いくら添付文書に従った用量だからと言っても、
作用機序や体内動態、化学的性状を考慮して
医師に処方訂正の提案をしていけるようにならないといけませんね。

最近発売されたこの本は、こういった考え方を学べる教科書的な位置づけになっているようです。

日経DIの「薬局にソクラテスがやってきた」という連載を
書籍化して学習しやすく編集した内容なので、
かなり読みやすく、そしてためになる1冊となっています。

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