処方解析というところまで奥の深いものでは無いのですが、処方例から病態を推察するということをしてみようと思います。
そもそも喘息の場合はガイドラインに沿って治療が行われることがほとんどなので、呼吸器専門医ではない一般内科の医師でも当たり前のように治療しています。
そのため処方内容は医師によってほとんど左右されません。
つまり基本さえおさえておけば、そうそう困ることはないということです。
新任の薬剤師で経験が浅い場合は、喘息治療で使われている吸入用の配合剤を理解することが最初の段階です。
薬局で出会う喘息治療では9割型が吸入の配合剤を使用しますので、当然といえば当然なのですが・・・
かくいう自分も始めて服薬指導を行ったときは、吸入ステロイドなどの定型文の説明しか出なかったのを覚えています。
そんな経験も含めて、処方例に簡単な解説を加えてみたいと思います。
処方例1:軽症持続型相当の症例
- アドエア250 1日2回 1回1吸入
- メプチンエアー100μg 発作時 1回2吸入
軽症持続型とは、無治療の場合、毎日ではないが週1回程度の喘息症状が起こる状態を指します。
薬局で処方内容が変わらず、ずっと継続して吸入剤を使用している人などはこのパターンが多い気がします。
アドエアはフルチカゾンプロピオン酸エステル(吸入ステロイド:ICS)とサルメテロール(長時間作用型β2刺激薬:LABA)の配合剤です。
国内の吸入ステロイド(ICS)と長時間作用型β2刺激薬(LABA)の配合剤の中では、かなりポピュラーな存在です。
メプチンエアーはプロカテロール(短時間作用性β2刺激薬:SABA)のエアゾール製剤です。
サルメテロールは長時間作用するβ2刺激薬ですが、即効性はありません。
そのため、アドエアだけでは発作時の呼吸苦には対応できないので、メプチンを発作時のリリーバーとして処方しているというパターンです。
最近ではICSとLABAの配合剤にレルベアやフルティフォームなど、新規に薬価収載された配合剤もあるので、アドエアがこれらに置き換わっている場合もあります。
処方例2:軽症間欠型相当の症例
- フルタイド100 1日2回 1回1吸入
- メプチンエアー100μg 発作時 1回2吸入(処方されたりされなかったり)
間欠型相当とは、無治療の場合、生活に支障の出ない程度の発作が週に1回未満起こる状態です。
例えば、2週間に1回くらい呼吸がしづらくなるが、呼吸困難までは行かない程度の発作が起こるような状態です。
フルタイドはアドエアからLABAのサルメテロールを除いた、吸入ステロイド剤のドライパウダー製剤です。
使い方はアドエアと同じです。
軽症間欠型相当の場合は、吸入ステロイド剤(ICS)のみを基本にして、発作が起きたらメプチンなどのSABAを頓用で使用する処方パターンが多いです。
処方例3:SMART療法
- シムビコートタービュヘイラー 1回1吸入 1日2回
発作時追加吸入 1回1吸入 6回まで
SMART療法とは「Single maintenance and reliever therapy」の略称です。
つまり、単剤でコントローラー(喘息予防薬)とリリーバー(発作治療薬)の両方の役割をもたせる治療方法です。
シムビコートはホルモテロールフマル酸塩(LABA)とブデソニド(ICS)の配合剤で、この1本で長期管理と発作治療を行うことができます。
SMART療法では、1日のシムビコートの吸入回数は8回を超えないことが適応の範囲です。
一時的であれば(医師から指示があれば)最高1日12回までが可能ですが、患者判断の治療方法となってしまい、逆にコントロールを悪化させる原因にもなるので注意が必要です。
「シムビコート=SMART」と思い込まずに服薬指導したほうがいいということです。
なぜ、LABAをSABAの代わりに使えるか?
ホルモテロールは長時間作用型のβ2刺激薬であると同時に、即効性の気管支拡張作用もあるのでこのような適応を持つことができます。
作用機序というか、薬物動態的に、ホルモテロールはβ2受容体に対して直接作用する経路と一旦細胞膜内に取り込まれて持続的に作用する経路があります。
日経DIOnlineにこのへんの詳しい記事があるので参考にしてみてください。
⇒ LABAがLABAたるゆえんを探る(山本雄一郎の「薬局にソクラテスがやってきた」)
薬学的な知見から解説されていて患者さんへ説明しやすくなるかと思います。
共通の注意事項
喘息治療では吸入ステロイドと長時間作用型β2刺激薬を基本に治療を行うので、それぞれの重要な注意事項は守るように説明します。
吸入ステロイドによる副作用予防
ステロイドを吸入する事によって生じやすい副作用で重要なのは、口腔内感染症と味覚障害です。
口腔内感染症はステロイドによる免疫力低下で引き起こされるので、吸入薬を吸引したあとにうがいを忘れずにしなければいけないと説明します。
ステロイドが必要なのは気管支より奥の部位なので、吸入後に口腔内に残ったステロイドを水で洗い流すように指導します。
味覚障害はステロイドと微量金属元素の亜鉛(Zn)がキレート形成をしてしまうことで引き起こされると考えられています。
基本的には感染症予防と同様にうがいをして口腔内にあるステロイドを洗い流すことが重要です。
「食物の味が変わった」「味を感じない」などの味覚障害が引き起こされた場合はすぐに主治医に相談するように指導します。
味覚障害は服用をやめても数ヶ月症状が取れないことがあるので、初期症状を見逃さないように経過を観察する必要があります。
β2刺激薬による副作用予防
β2刺激薬には心筋に作用して心悸亢進(動悸・頻脈・血圧上昇)や代謝系に作用して甲状腺機能亢進・糖代謝異常などを引き起こす可能性があります。
特に心悸亢進は不整脈などを引き起こすことがあるので、注意が必要です。
具体的には吸入後に全身作用を引き起こさないように口腔内に残った薬剤をうがいして洗い流すこと、発作時吸入の回数を守らせることが重要です。